穴があったらこもりたい

スティーヴン・キング『IT(上)』感想

去年かな?2017年のリメイク版が、金ローで放送されていたのを一瞬だけ見て、
ペニーワイズが怖かっこよかったので、ずっと気になっていました。

でもいまだに2017年版も1990年版も見てません。
というかホラーが大の苦手で、見たくても見れない!
TUTAYAで見かけるたびに、迷って結局借りないを繰り返しています。つらい。

なのでまずは原作を読んで、映画に挑む作戦でいくことにしました。

結論:怖がりでもなんとか読めます。(※当社比)
今回は怖がりでも読めた理由とともに、感想を書きます。

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chris_dagorneによるPixabayからの画像

 IT(イット)とは何なのか?ITはITとしか呼びようがない。それほど巨きく、不可思議だ。忘れていた少年の日にもどって、あのおぞましい恐怖を通じて得た愛と勇気を、いま確かめようとする7人。S・キング傑作群中の最大傑作。
(「BOOK」データベースより引用)

内容

1958年アメリカ、メイン州の田舎町デリーで、
子供たちが次々と失踪したり死亡する事件が起きる。
それは子供にしか見えない殺人鬼ピエロ、IT(ペニーワイズ)の仕業だった。

1958年にペニーワイズと戦った7人の子供たちが、
27年後の1985年、再び姿を現したITと対決するため、デリーに集結する。

…というのがあらすじです。

 

構成としては1985年の大人時代(現代)と、1958年の子供時代(過去)が、
平行して交互に描かれています。

なので、大人になった主人公たちがデリーに向かう中、
子供時代に何があったのかが、徐々に明かされていきます。

 

ちなみに私は、この本が大長編小説だと知らなかったので、
図書館で書庫から出してもらったとき、笑いそうになりました。
鈍器かなって。しかも文章二段だし。

上下巻あったけど上巻だけ借りて、その上巻もカバンからはみ出してました。

なのでハードカバーを借りたり買ったりするときは、でかいカバンをおすすめします。
文庫本だと4巻あるみたいです。

 

怖がりでもなんとか読める理由① 登場人物

この小説、めちゃ長いですが、それだけ良いところもあります。
その一つが、登場人物の詳しすぎる描写です。

メインになる7人の仲間たちはもちろん、その家族まで掘り下げられていて、
たまにITのことを忘れそうになるほど、人間ドラマが充実しています。

 

7人の仲間たち「はみだしクラブ」を紹介しておきます。(※子供時代)

 

ビル

よく「どもりのビル」とからかわれる。
はみだしクラブの中ではリーダー的存在で、慕われている。
弟のジョージをITに殺されて、家庭が荒れていて、
なんとか家庭環境が改善されてほしい人物の一人。
ITには恐怖はもちろんあるけど、弟を殺された怒りがあって、
個人的に見ていて一番安心?する。

 

リッチィ

お調子者でよく喋る。眼鏡が特徴。
色々な声真似やジョークが得意。
よく周りから黙らされる。ビービー、リッチィ。

 

エディ

喘息持ちで吸引器が手放せない。
でもそれは過保護すぎる母親のせい。
なんとか家庭環境が改善されてほしい人物の一人。

 

ベヴァリー

はみだしクラブの紅一点。サバサバした性格で美人。
束縛気味の父親から虐待を受けている。
なんとか家庭環境が改善されてほしい人物の一人。

 

ベン

本好きなふとっちょ。よく図書館に行く。ベヴァリーが好き。
7人の中では一番好きな人物なので、いつも一人だったのが、
はみだしクラブで楽しそうにしているのを見て、
なんか、良かったなぁ…!ってなった。(近所のおっさんの気分)
でぶなのは、母親のせいでもある。

 

スタン

ユダヤ人の少年で、几帳面で慎重な性格。綺麗好き。
バードウォッチングが趣味で、目当ての鳥をじっと待つ。
下巻をちらっとネタバレすると、
周りとズレたジョークを言ったりする。かわいい。

 

マイク

黒人の少年。みんなと違う学校に通っている。
一番最後に、はみだしクラブの仲間になる。
大人時代にはみんなデリーにいない中、
唯一デリーに残って、ITがまた現れたら連絡する役目になる。

 

ほかにもこの「はみだしクラブ」を執拗にいじめる、
ヘンリーといういじめっ子率いる不良グループなんかもいます。
(個人的にはIT並みか、それ以上に怖い)

しかしこうしてみると、家庭環境とかいじめとか…
IT関係なく問題多すぎやしませんか…だからこそ7人団結するのかもしれないけど…

 

怖がりでもなんとか読める理由② 世界観&青春

デリーは架空のアメリカの古き良き田舎町なんですが、
日本の田舎県生まれ育ちで、平成生まれな私でも、
なぜか懐かしいと思ってしまうような、ノスタルジックで素敵な雰囲気なんです。

友達と一緒に冒険したり、小さな映画館に行ったり、
駄菓子(たぶんアメリカンな派手なヤツ)を買い食いしたり…

あとビルは、体格に合わないでかい愛用の自転車「シルヴァー」を
全力猛スピードで走らせたり…

子供時代の回想は、青春やら淡い恋心やらで、キラキラしています。
もうキラキラすぎて直視できない。あの頃に戻りたい。(そんな過去はない)

こういう世界観なので、多少怖さが薄れる…ことは決してありませんが、
日本的なホラーが苦手な人は、とっつきやすいかもです。

 

IT(ペニーワイズ)の謎

※ほーんのちょっとだけネタバレかもなので注意

 

 

上巻で分かっているIT(ペニーワイズ)の特徴は以下です。

  • 子供を襲う(食べる?)
  • 子供にしか見えない(特定の人にしか見えない?)
  • 27年ごとに現れる
  • 変幻自在で相手が怖がる姿に化ける(心が読める?)
  • どこにでも(昼間でも)現れる
  • 喋る
  • 超常現象のようなものを起こせる
  • デリーの地下に住む?(デリーの街そのもの?)

ITが何に化けたのか、どんな超常現象を起こしたのかは言いませんが、
意外だったのが、物理攻撃が多少効いたところです。

逆に言うと、そこしか弱点らしきものが今のところ無く、最強、いや最恐です。

 

さらに謎なのが、大人になってデリーから離れている6人(マイク以外)が、
全員仕事などで成功していて、子供のころ(デリーにいたころ)の記憶がありません。
(マイクからの電話、そしてデリーに向かう過程で徐々に思い出す)
そして7人全員子供がおらず、さらにメンバーの一人にとある事件が起こります。

これらの意図はまだわかりませんが、これがITがしたことなら、
デリーの外にも影響を及ぼせる、さらに人の行動や思考、
人生すら操れるかもしれない、ということです。

いやこれ、はみだしクラブ、どうやって倒したん…?
一時的にでも無理では?いや倒せたから大人になってるんだろうけど…

 

まとめ(読めたけどやっぱり怖い)

押し入れの中に何かいるかも…
トイレの中から手が伸びてくるかも…
夜布団から足を出していると引っ張られるかも…
(作者のS・キングも怖がりで、寝るときは両足を毛布でくるむらしい。嘘やろ)
そしてそういうことがあっても、親に気づいてもらえないかも…

子供のころ誰でも考えた恐怖を、もう一度リアルに体感させられるような、
そんな種類の怖さです。(私は子供のころと言わず、今でも思ってますが…)

 

はたして子供時代の7人は、どうやってITを倒した?のか。
大人になった彼らはITと決着をつけられるのか。
てかそもそもITの正体って何なのか。

あとそうそう、作中に意味深にちょくちょく出てくるあの動物は、一体何なのか。

下巻も頑張って読んできます。にしても長い。

 

【追記】下巻の感想です~

l84blog.hatenablog.com

 

 

安部公房『人間そっくり』感想

前にテレビで「地球は平面であることを証明する」と言って、
自作ロケットを打ち上げる活動をしている人を見ました。

普通、地球は丸いのは当たり前で、
スタジオでも笑いが起きていたと思いますが(うろ覚え)

でも大半の人は自分の目で、地球は丸いことを確認していないですよね?
メディアや本で見たり、人から教わったり。

もしもメディアや教えてくれる人が、全部ウソだったらどうでしょうか?
そんなわけないと思うけど、ウソじゃない証拠もないですよね…

あれ、何の話だったっけ?
そうそう、この本を読んで、そんなことを思いました。

 

今調べたら、ロケットの方亡くなってたんですね…ショック。
そして本当は地球平面説も信じていなかったと…そりゃそうか。なんかちょっと安心。

「地球平面説を証明する」として自家製ロケットに搭乗した男性がロケットの墜落事故で死亡 - GIGAZINE 

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mdherrenによるPixabayからの画像

 《こんにちは火星人》というラジオ番組の脚本家のところに、火星人と自称する男がやってくる。はたしてたんなる気違いなのか、それとも火星人そっくりの人間なのか、あるいは人間そっくりの火星人なのか? 火星の土地を斡旋したり、男をモデルにした小説を書けとすすめたり、変転する男の弁舌にふりまわされ、脚本家はしだいに自分が何かわからなくなってゆく……。異色のSF長編。
Amazon商品ページ内容紹介より)

内容

自称火星人のセールスマンと、ラジオ番組の脚本家がひたすら会話する。
それがこの本の内容です。ほんとに。それだけ。

ずーっと脚本家の家…というか書斎が舞台で、外に出るのは数ページだけ。

それなのに、めちゃくちゃ頭も心も乱されます。
大した事件も、どんでん返しもないのに、会話だけでここまで混乱させられるとは…

安部公房すごいね…箱男同様、完全には理解できませんでした。無念。でも面白い。

 

l84blog.hatenablog.com

 

自称火星人 

この小説でなんといっても強烈なのが、自称火星人の男。とてつもなく胡散臭い。

流暢すぎる喋りに、落ち込んだ次の瞬間、機嫌が良くなったりと、
かなり掴めない人物(人物?)です。

そんな変人を何故追い出さないのかというと、彼の奥さんから、
「主人は精神病で、暴れだすと警察を呼んでも手におえないぐらいなので、
私が迎えに行くまで、話だけ聞いてやってください」
…的なことを電話で言われたからです。脚本家さん、かわいそう。

しかもこの男、喋りが得意なだけでなく、人を苛立たせるのも得意で、
おまけにナイフを扱うのも得意です。
脚本家さん、かわいそう。

 

でも私はこういう奇怪?なキャラクター、わりと好きだなぁと思いました。
怖いし腹立つとは思うけど…

バットマンのジョーカーと、笑ゥせぇるすまんの喪黒福造を合わせて、
さらにそこに気弱な感じを追加したような…うん、よくわからんね。

キャラクターとしては好きだけど、絶対に会いたくない人(人?)です。

 

そうそう、この自称火星人もだけど、個人的に好きな登場人物がもう一人。
脚本家の奥さんです。

自称火星人のペースに飲まれた脚本家を、何気ない一言で現実に戻したり、
饒舌に語る自称火星人を「煮物がこげているみたい」で一刀両断したり。

自称火星人を一瞬だけど怯ませる奥さん、面白かったです。

 

正気と狂気

最初のほうは、脚本家のファンのセールスマンが押し掛けてきたと思ったら、
自分は火星人ですだとか、火星の土地買いませんかとか、
先生の小説売りましょうとか、おかしなことばかり言い出して、
イライラさせられながらも、対応するという流れでしたが、
途中からいつのまにか、自分は地球人なのか、火星人なのか、
何が正気で何が狂気なのか、というような議論になっていきます。

自称火星人の男が言っていることは、全部でたらめの屁理屈だ!と思うのに、
どうやっても反論する言葉も証拠も出せず、男のペースに飲まれていきます。

そして、男の言うことも一理あるかもしれないとすら、思えてきてしまうのです。

 

大抵は本を読むときって、いくら熱中してのめりこんでも、
どこか客観的というか、他人事だと思うんです(当たり前だけど)

でもこの本を読んでいると、途中から他人事じゃなくなるというか、
こっちまで、今まで当たり前だったことを疑いだして、足元がぐらぐらしてきます。

 

まとめ

よく、「実は、現実も自分の体もなくて、脳だけ培養液に浸されて、
バーチャル映像を見せられている」なんて話は、映画やドラマや本で見るけど、
そういう話は本当にあるかもしれない……と思わされてしまう小説でした。

 

あきらかにおかしいと思うのに、何がおかしいのか言い返せないもどかしさ。
自分の信じてきた当たり前が、めちゃくちゃ脆いものかもしれないという不安感。
自称火星人の男に募るイライラ。(笑)
今までにない不思議な読後感を味わえます。

あと、安部公房の本では比較的読みやすいので、安部公房は好きだけど
難しくてなかなか読めん…っていう私みたいな人にもおすすめです。

 

あっでも、だいぶ混乱させられるので、読むときは体力のある日をおすすめします。

 

トーベ・ヤンソン『ムーミン谷の彗星』感想

台風が来てますね。しかもなんかヤバそうなやつが。

私が住んでるところは幸い、直撃はしなさそうですが、それでも怖いですね…
バイク通勤怖え……

でも備えもしたのなら、もう怖がってても仕方がないので、
せっかくなんで、この状況にぴったりの小説を久々に読み返しました。

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長い尾をひいた彗星が地球にむかってくるというのでムーミン谷は大さわぎ。ムーミントロールは仲よしのスニフと遠くの天文台に彗星を調べに出発し、スナフキンや可憐なスノークのお嬢さんと友達になるが、やがて火の玉のような彗星が…。国際アンデルセン大賞受賞作家ヤンソンの愛着深いファンタジー
(「BOOK」データベースより引用)

内容

ムーミン谷の彗星」は、全9作あるムーミンの小説のシリーズの、実質1作目です。
実質というのは、長らく絶版だった幻の1作目があるからです。
でもムーミンを読み始めるなら、彗星からがいいかなぁと個人的には思います。

 

さてさて、ムーミンといえば原作小説だけではなく、コミックス、絵本、アニメ、
北欧雑貨や、あとテーマパークもできたりして、色んなところで目にします。

私はアニメとかは見たことありませんが、だいたいムーミンの印象って、
ほんわかしてて平穏で…って感じじゃないですか?

私はそのほんわかな印象でこの原作を読んで、かなーりびっくりしました。
シリーズ初っ端からムーミン谷、てか地球滅亡の危機。

ムーミンでまさかの自然災害。台風接近中の今がぴったりすぎる内容なんですよね…

 

彗星接近の描写

魅力的なキャラクターやストーリーはもちろん素敵ですが、それは後に置いといて、
まずは、彗星接近で荒れる自然の描写について。

この話でずっと漂っている、不穏な空気や不安感はほとんど、
彗星接近の描写が、子供向けとは思えないほどリアルなためだと思います。

雨上がりに一面に広がる、どす黒い汚れから始まり、
赤い空に、干上がった海、ものすごい暑さ…
さらにイナゴの大群や、我先にと逃げる住民たちなど、結構怖いです。

 

魅力的なキャラクター

そんな不安な空気を和らげるのは、
ムーミンや、スニフ、スナフキンなどのキャラクターです。

ほとんどというか…もう全員がマイペースすぎて…
緊急時でも、すっとぼけた会話をしていたりするところが、大変微笑ましいです。

 

唯一、常識的というかしっかりしてるのがスナフキンスノークですが…

スノークは、とにかく会議を開こうとするあたりはマイペースだし、

スナフキンは、よくムーミンたちや周りの状況を見ていて、
一瞬落ち込んでも、すぐに自分にできることをひょうひょうとこなしますが、
緊急時でもダンス会場に寄り道しようとするムーミン一行を、
見るだけなら…と止めないで、結果自分も楽しんじゃうあたり、
やっぱりマイペースなのかなぁと思ったりしました。そこが良いんだけどね。

 

あっ、あとマイペース関係ないけど、
とある場面で、ムーミンが言う悪口がキレッキレで面白すぎるので、
そこは必見…というか必読です。
(アニメではスナフキンが言ってるみたいですね。それも絶対面白い)

 

最強?ムーミンママ

個人的に一番マイペース…というか何事にも動じない、心の広いキャラクターが
ムーミンママだと思っています。

 

例えば最初の方の場面。じゃこうねずみという哲学者のおじさんが、
地球は滅亡するとか、宇宙の話や、不安なことばかり言って、
ムーミンとスニフがそのことばかり頭から離れず、遊ぶ気力も無くします。

そこでムーミンパパが、子供たちが星のことしか考えられないのなら、
天文台に行かそうと提案して(このパパの発想もすごい)ママも同意します。

そして、「宇宙がほんとうに黒いのかわかったら、うちのみんなが助かるわ」
ムーミンとスニフに言って、「ママが安心できるのなら」と、
2人は冒険に出かけます。

 

この場面の感心するところは、ムーミンパパとママが、
まだ小さな(年齢はわからんけど)子供たちを、2人だけで旅をさせるところと、
あえて、2人が怖がっている、星や宇宙を観測しに行かせるところ。

そしてムーミンママが、ただ行ってきなさいだけじゃなく、
行ってくれたらみんなが助かると言うところ。

そりゃ、ママを安心させるために冒険に行くんだって、少年だったら燃えますよね。
うまいこと言うなぁと思いました。

 

そして彗星接近で、住民たちが必死で避難している場面。
ムーミン谷に残ったムーミンママが、何をしていたかというと、

家の中ではムーミンママが、おちつきはらって、しょうがビスケットを、やいているところでした。
(本文より引用)

 しょうがビスケット焼いてました。

ほかの住民が避難して、ムーミンパパがこんなことなら旅に出すんじゃなかったと、
後悔と不安でうろうろしてる横で。

なんならムーミン帰還祝いのデコレーションケーキ作ってました。

動じなさというか…ムーミンママの安心感やばいですね…
この後の展開も、ママのマイペースぶりが発揮されていました。

 

まとめ

ほかにもスナフキンの名言とか、可愛い押絵とか、
言いたいことがたくさんありますが、長くなるのでまとめます。

 

私が心に残ったところは2つ。

1つ目は、もしこの話がヒーローものなら、彗星衝突を何としてでも止めますが、
この作品はいくらムーミンたちが大冒険をしたところで、
どうしようもないところです。
どうしようもないなかで、ムーミンたちがそれぞれ、どう行動して考えるか…
そこが結構考えさせられました。

2つ目は、登場するキャラクター。ちょっと個性的な人が多いです。
現実にいたら、もしかしたら距離を置かれちゃうかもしれないような人たち。
それでもこのムーミンの世界では、みんな当たり前に受け入れられています。
その空気感がとても好きで、自分もこの世界に行きたくなりました。

 

ムーミンのことになると、ずっと書いていられそうですが、
2000文字とっくに超えちゃってるんでそろそろ終わっときます。
雷も鳴ってきたしね。

 

奥田英朗『イン・ザ・プール』感想

この本の表紙なんですけどね、プールの底?に赤ちゃんがいる表紙なんですよ。
だから初めて本屋で見かけたときは、この怪しげな表紙を見て、
ミステリーかホラーかと思っちゃって、手に取らなかったんですよね…

全っ然違うのに。

人は見かけによらないと言いますが、本も見かけによりませんね。

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Stefan KuhnによるPixabayからの画像

 「いらっしゃーい」。伊良部総合病院地下にある神経科を訪ねた患者たちは、甲高い声に迎えられる。色白で太ったその精神科医の名は伊良部一郎。そしてそこで待ち受ける前代未聞の体験。プール依存症、陰茎強直症、妄想癖…訪れる人々も変だが、治療する医者のほうがもっと変。こいつは利口か、馬鹿か?名医か、ヤブ医者か。
(「BOOK」データベースより引用)

 内容

イン・ザ・プール」は3作ある「精神科医 伊良部シリーズ」の第1作で、
5話収録されている短編集です。

イン・ザ・プール」以外のシリーズも、1話完結の短編集で、
しかもとても読みやすく、空き時間や出先で読むのにちょうどいいです。

私は面白すぎて一気に読んでしまいましたが…

 

精神科医 伊良部一郎

何が面白いってやっぱり、伊良部先生が面白すぎます。
まず先生なのに、患者を治す気があるように見えません。
カウンセリングとか無駄とまで言っちゃう。

いやでも、精神科医だし、患者の話は聞くでしょと思いますが、

「つまりストレスなんてのは、人生についてまわるものであって、元来あるものをなくそうなんてのはむだな努力なの。それより別のことに目を向けた方がいいわけ」

「と言いますと……」ほう、何か策でもあるのかと思った。

「たとえば、繁華街でやくざを闇討ちして歩くとかね」
(本文より引用)

 …精神科医だし……

「で、わたしに、やくざを襲えと……」

「たとえばの話だよーん。あはは」伊良部は大口を開けて笑っている。「休暇をとって紛争地帯へ行くのだっていいし」
(本文より引用)

 うん、聞く気ないね!

 

さらに伊良部先生、注射フェチです。
診察室に入ったとたん、「さあ注射、いってみようかー」とか言います。

それで伊良部先生に続き、もう一人の魅力的な登場人物の、美人でめちゃ不愛想で、
おまけに露出の多いナース服の看護婦、マユミちゃんが注射する横で、
鼻息荒く、もう食い入るように見てるわけです。

やべえよ。

 

伊良部先生の良いところ

他にも太っててマザコンで…とか書いていくと悪いところばっかりになっちゃうので、
伊良部先生の良いところを書いていきます。

 

①ほんとは賢い?

子供っぽくて、人の話聞いてなくて、馴れ馴れしくて、
なんなら夜中のプールに勝手に侵入するような、めちゃくちゃな人だけど、
たまに確信めいたことを言ったり、患者を見てないようなのに、
一目見て症状がわかっていたり(わかったうえで治療のために黙っていたり)
実は名医?と感じるところがあり、そういうところにグッときます。
これがギャップ萌えというやつでしょうか。

(でも次の言動で、迷医に逆戻りする)

 

②だいたい患者治ってる

これが一番の良いところで、一番の謎です。
めちゃくちゃ言うのに、最後には絶対良い方向に進むんです。なぜか。
(たまに伊良部先生関係なく治ってるけど)

フィクションと言っちゃえばそうなんですが、もしかしたら、
患者にとっては、肩ひじ張らずに言い合える相手がいるだけで、
治療の一環になっているのかなぁとか思いました。

ケータイ中毒になってる患者にケータイ貸してもらって、自分もハマるような先生に
あきれる人はいても、緊張する人はいないですよね。

 

患者たち

伊良部先生のところに来る(もしくは回されてくる)人たちも、
あまり人には話せない、理解されないような、
なんなら、ほかの病院ではお手上げのような、そんな悩みを持った人たちです。

確かに現実では一見なさそうな悩みや症状ですが、よくよく読むと、
ありえなくはない、と思うんですね。

ケータイ依存の話なんかも、依存の程度は結構なもので現実味はあまりありませんが、
そもそもの原因は友達に見放されるのが怖いという、よくある恐怖だったりします。

心のどっかで、自分ももしかしたらこういうところあるかも…と思うから、
余計に面白いのかもしれないなぁと思いました。

 

まとめ

最後に私事で悪いのですが…
私は現在連絡を取り合ったり、遊んだりする友達が0人で、
だからといって悩んでいるわけじゃないけど、
これでいいのかなぁと漠然と思ったりしていたのですが、

伊良部先生とマユミちゃんが、友達いるか聞かれる場面があって、
二人ともしれっと「いないよ」と答えるんですよね。
マユミちゃんなんかは淋しいか聞かれて、即答で「淋しいよ」と答えます。
(一人のほうが、らくでいいらしい)

この場面でちょっとだけ楽になったんですよね。

とにかく人の目なんかまっったく気にしない伊良部先生と、
いつでもブレないマユミちゃんを見ていると、
少々の悩みは馬鹿馬鹿しくなりました。

もし人の目を気にして疲れたり、頭が固くなっちゃってる人がいれば、
この本はもしかしたら、良い処方箋になるかもしれません。

そうじゃない人も是非読んでほしいです。笑えるので。

 

森博嗣『スカイ・クロラ』感想

映画にもなった、森博嗣の有名な小説です。
私もだいぶ前にシリーズ全部読みましたが、内容を綺麗に忘れてしまったので、
もっかい借りて読みました。

しかし、面白かったという記憶はしっかりあるのに、内容を思い出せないって…
まっ、まぁ、もう一度楽しめると考えると、忘れっぽいのも得かもしれませんね。
そういうことにしておきます。

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Subhodeep NathによるPixabayからの画像

僕は戦闘機のパイロット。飛行機に乗るのが日常、人を殺すのが仕事。二人の人間を殺した手でボウリングもすれば、ハンバーガも食べる。戦争がショーとして成立する世界に生み出された大人にならない子供―戦争を仕事に永遠を生きる子供たちの寓話。
(「BOOK」データベースより引用)

 

内容

戦争がビジネスになっている世界で、歳をとらない子供(キルドレ)が、
戦闘機に乗って戦う…

ストーリーだけ見ると、殺伐とした感じというか、緊張感がありそうですが、
実際は大きな事件もほとんどなく、淡々と物語が進んでいくのが新鮮でした。

人を殺して、自分も殺されるかもしれないのに、どこか達観というか渇いた感じの、
主人公の日常を見ているというのが、しっくりくる気がします。

 

あ、あと、このスカイ・クロラは、出版順では1番最初ですが、
時系列で言うと、最後から2番目です。(最後はスカイ・イクリプスという短編集)
そして時系列の1番最初は、ナ・バ・テアです。

なので、出版順で読むか、時系列順で読むか選べるわけです。
スターウォーズみたいやね。
(ちなみに私は、内容をほとんど忘れるというチャンス?に恵まれたのに、
昔読んだ時と同じく、スカイクロラから読み始めちゃいました。もったいねぇ)

 

戦闘シーン

スカイクロラの魅力はいくつかありますが、その中の1つが戦闘シーンです。
短い文章(もしくは単語?)に、いくつも改行を入れて書かれています。

大きく息を吸う。
そして止める。
左に反転。
上昇してくる相手の前方へ出る。すぐに右に反転。
撃ってきた。
(本文より引用)

 なんか、緊張感ありますよね。
必要最低限の言葉を、区切って書かれているのが、
緊急時に短いやりとりをするような感じで、この臨場感が好きです。

まぁ、飛行機の用語とかはわからないので、そこは雰囲気で読んでますが。

ほかにも戦闘以外の緊迫したシーンや、主人公が考えを巡らせているシーンなどで、
こういう緊張感ある文章になっていました。

 

スカイクロラのは、主人公のパイロット、カンナミ・ユーヒチのほかにも、
たくさん個性的な人物が登場します。
その中には、これからの物語で重要な人物や、素性が謎な人物も出てきます。

この人間関係や人物の謎が多いところも、魅力の1つだと思います。

また、物語が主人公のカンナミ視点で進むことと、説明が少ないことで、
なかなか真相が見えてきませんが、それを読み進めるのも面白いです。

それともう1つ大きな謎が、大人にならない子供、キルドレの存在。
こちらも説明が全然されませんが、物語の途中で手掛かりのようなものが、
いくつか出てきます。

キルドレとはどういう存在で、どうやって生まれたのか…
この世界の戦争って、どういうものなのか…
そういうところを考えるのも面白いです。

 

食事のシーン

これは私だけかもしれませんが…
日常の場面、特に食事シーンの雰囲気がめちゃ好きです。

主人公が同僚のバイクの後ろに乗って、基地から街へ向かうシーン。
道の途中にある店で、ミートパイと苦いコーヒーを頼むのですが、
このシーンがなんというか…うまく言えないけど、本当に良い雰囲気なんです。

店内は煙草の煙と、スローテンポのロックが充満していて、
外にはネオンで黄色に染まったテラスが見える…

この店現実にあったら絶対行きたいと、心底思いました。

ほかにもボーリング場で、コーラとハンバーガーを食べるシーンなど、
なんてことない日常の場面が、本当に魅力的なんです。

あ、思い出したらコーヒーかコーラ飲みたくなってきた。

 

まとめ

複雑な人間関係に、たくさんの謎。
戦闘シーンの緊迫感や、死生観。
自分も空にいるようなすがすがしさや、なんてことない日常の場面など、
いろいろな要素はあるけれど、全体的には乾いていて落ち着いた雰囲気でした。

この世界の戦争とは?とか、キルドレって?とか、この人は何者?とか、
気になるところも多く、それを考えるのも楽しいですが、
個人的にはこの世界観にどっぷり浸るのも楽しいし、
何故かわからないけど、なんとなく癒しになるなぁと感じました。

とりあえず全シリーズ、読んでみようと思います。

 

森博嗣『銀河不動産の超越』感想

私は図書館に行くとき、「これを借りるぞ!」と決めて行きます。
(選ぶ時間で疲れるし、お家でゆっくり読みたいので)
でもこの本は珍しく、たまたま手に取って最初の三行読んで借りました。
私のように無気力な人は、きっとみんな最初の三行で読みたくなります。
…言い過ぎかな?

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PIRO4DによるPixabayからの画像

 危険を避け、できるだけ頑張らずにすむ道を吟味し、最小の力で人生を歩んできた高橋青年。彼の運命を変えたのは、入社した「銀河不動産」だった。奇妙な「館」、衝撃の連続。究極の森エンターテインメント。
(「BOOK」データベースより引用)

 

内容

森博嗣の小説は、女王の百年密室ヴォイド・シェイパスカイ・クロラが好きです。
なので、今回もミステリかSFか…と想像していましたが、全然違いました。

優しくてゆるーい感じ。ジャンルは日常?ファンタジーになるのかな。

面白くて続きが気になって、あっという間に読み終わった!っていうよりは、
のんびり読んでたら、いつの間にか読み終わってた…て感じの小説です。

この本は是非、コーヒーか紅茶か飲みながら読みたいですね。
私はミロを飲みました。

 

気力がない主人公

最初に言った最初の三行の話です。(ややこしい)

毎日が気怠い。疲れが溜まっているのだ。半年ほどまえに就職したが、それ以来、定休日を除いて、毎日出勤しなければならなくなった。世間では、ごく当たり前のことかもしれないけど、私にはこれが辛い。

(本文より引用)

 定休日を除いて、毎日出社するのが辛い。
人によっては、何甘えたこと言ってんだ!って言われそうだけど、辛いんですね。

当たり前がしんどいというか、周りの人より気力がないというか…。
でもこういう人結構いるんじゃないかと思うんです。私含め。
うん、絶対たくさんいる。私だけじゃないはず。

 

ほかにも、主人公高橋君に共感してしまう場面がいくつもあります。

例えば、遅刻する場面。
朝から仕事があるのに寝坊して、必死に仕事場へ向かったのに、約束の時間より早い。
そこで前日に時計を進めていたのを思い出す。そして大事な鞄を忘れる。

…別に自分が、こういう場面に出くわしたことがあるわけじゃないけど、
似たようなことは身に覚えがあるし、これからやらかしそうな気がする。

そして流されやすくて、省エネな高橋君の考え方に、つい自分を重ねてしまうのです。

 

この主人公の考え方に共感するところが多いのが、一番のお気に入りポイントです。
別に高橋君が成長して変わったり、問題を解決しなくても、
「あ~わかるな~」ってなるのが癒しというか…
同じ種類の人だって、安心するんですよね。たとえ現実にいない、物語の中の人でも。

是非最初の三行で共感した人は、読んでみてほしいです。

 

ストーリー

なんか感想終わった気になってたけど、ストーリーまだでした。
ですが正直に言っちゃうと、私は話自体はあまり好きになれなかったかな…。

 

前半は面白かったです。
銀河不動産に来る、主人公とは対照的な我が強い客たち。
でもまっったく嫌じゃないというか、憎めないというか。

みんなそれぞれ個性があって、まっすぐな人たちなんですね。
そして主人公の高橋君も、そんな人たちのために自分なりに頑張ります。

…というか高橋君、流されやすい通り越して、受け入れっぷりがえぐいです。
徹底して来るもの拒まずです。心配になるぐらい。
それでいいのか高橋君。まぁ結果なんだかんだで楽しそうなので良かったですが。

 

そして後半、ネタバレになるので書きませんが、ちょっとした事件?があります。
たぶんここから読む人によって、好き嫌い分かれそうです。

前半では高橋君、流されながらも納得して受け入れてるように見えますが、
後半では、それはハッキリさせなあかんで!?って状態で流されます。

来るもの拒まずというか、拒む隙がなかったというか。

で、どうしようと答えをはっきりさせないうちに、物語はどんどん進んでいきます。
まさかの良い方向へ。

 

普通物語が良い方向へ進んでいくと、嬉しいですよね。
ただ今回私は、得体のしれない恐怖を感じました。

高橋君がスパッと受け入れていたら、なんてことなかったと思いますが、
答えがなあなあになっている状態で、どんどん良い方向に進んでいくのが、
何故だかわからないけど、怖いのです。あれ、これ私だけかな?

 

ラストどうなるかは、もちろんネタバレなので書きませんが、
きっと人によって感じ方は違うんだろうなぁ…気になる。

 

まとめ

色々書いたけどまとめると、ほのぼの現代わらしべ長者的な小説でした。

後半からは個人的にはモヤモヤしましたが、全体的には、
さらっとしてるけどほんわかした空気感で、とても読みやすかったです。

この話はファンタジーで、実際にはこんな上手い話はないけど、
流された先で頑張ることができるなら、流される性格も悪くないんじゃないかと、
ちょっとだけ明るくなれました。

 

安部公房『箱男』感想

初めて「壁」を読んでから安部公房にハマり、ほかの作品も読んでましたが、
箱男」は 今まで避けてきました。特に難解と聞いていたので…
でもとうとう読んだので、忘れないように感想書きます。
(私の脳みそじゃ、理解はもちろん出来なかったけど)

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Juan FranciaによるPixabayからの画像

 ダンボール箱を頭からすっぽりとかぶり、都市を彷徨する箱男は、覗き窓から何を見つめるのだろう。一切の帰属を捨て去り、存在証明を放棄することで彼が求め、そして得たものは? 贋箱男との錯綜した関係、看護婦との絶望的な愛。輝かしいイメージの連鎖と目まぐるしく転換する場面(シーン)。読者を幻惑する幾つものトリックを仕掛けながら記述されてゆく、実験的精神溢れる書下ろし長編。

Amazon内容紹介より引用)

 

内容

本の内容?構成?は、箱男本人が箱男についての記録をつけているというもの。
そのせいか、記録風なところもあれば、突然物語が始まったり、
途中で新聞記事や、はたまた写真まで挟まってます。

あらすじに書いてある通り、実験的精神溢れてますね。
とても斬新。小説ってなんだっけ。

 

箱男とは(の前に)

まずここが、わからないなりにも私のお気に入りポイントなんですけど、
箱男とは何かの前に、箱の製法から説明されます。

それはもう材料から作り方まで、詳しく説明してくれます。
これで明日から君も箱男だ!とか言われるんちゃうかなと思いました。(言われない)
まだ箱男が何者かもわからないのに。

特に面白かったのがここ。

雑踏に出向く機会が多い場合は、ついでに左右の壁に穴を開けておくのもいいだろう。(省略)
補助の覗き穴にもなってくれるし、音の方角を聞き分けるのにも好都合だ。穴は内側から開けて、ささくれを外に向けたほうが―見てくれは悪いが―雨じまいには有利なようである。

(本文より引用)

 そっか、穴を外から開けると雨が入ってくるんですね、なるほど~……
いや、なるほど~ちゃうわ。何がなるほどや。

…というセルフつっこみをいれました。

でも不思議なことに、何の役にも立たないはずなのに、
ライフハックの記事を読んでる気分になるんですよね。

まだ箱男が何者かもわからないのに。

 

箱男とは

箱男とは、箱をかぶって街中を徘徊する路上生活者。
全国各地にいる痕跡があるが、世間から無視されるため、話題にならない。

…街中で見つけちゃったら、めちゃめちゃ不気味ですね。

そんな箱男、石を投げられたり空気銃で撃たれたりする嫌われ者で、
誰が好き好んでやるんだって話になるんですが、動機はとても些細なものなのです。

その動機は読んでもらうとして、誰でも箱男になる可能性があるのですね。
怖い。

 

ストーリー

一応元カメラマンの箱男がひょんなことから看護婦と出会って~という話が軸ですが、
とにかくストーリーがわからない!難解!

というのもまず主人公がわからない、今誰が話しているのか(書いているのか)
そもそもどの場面が現実か空想かも、後半になるにつれわからなくなっていきます。
(途中で謎の寓話?や、謎の詩や写真も入ってくるし)

ここが箱男一番の難関だと思います…
逆にこの夢のようなあやふやな世界に入り込めたら、楽しめると思います。

 

テーマ

物語の構成なんかは難解で、なかなか掴みどころがありませんが、テーマは単純に
「見る側、見られる側」、または「匿名性」というキーワードが、
あちらこちらに散りばめられているように思いました。

文中でも、箱男の覗き窓からの眼差しが、

無防備な箱男にとっての、数少ない護身術の一つだといっても言い過ぎではないはずだ。

(本文より引用)

 というのがあり、ほかにも写真に添えられた言葉で、

見ることには愛はあるが、見られることには憎悪がある。

(本文より引用)

というものがあります。

見ること(覗くこと)は暴力的なもの、見られることは不快で耐え難いものということが、
読んでいて印象に残りました。

 

ということは、箱をかぶって匿名性を保ち(他人に見られることなく)
そのくせ他人や世界を自由に覗き見ることができる箱男は、
特に悪いことをしてなくても、さぞかし疎まれる存在なんでしょうね…。

 

まとめ

正直な感想は、結局何だったんだろう……です。
色々思うところはあったはずなのに、読み終えると掴めない何かが残ってる…
そんな不思議な小説でした。

きっと読む人によって、解釈も楽しみ方も違うんでしょうね。箱男の印象も…

ちなみに個人的には、箱男ちょっといいなと思ってしまいました。
他人から見られず、自分の周りをすっぽり囲ったら安心するだろうなぁ……

はっ、危ない危ない。

 

最後に写真に添えられた言葉で、好きなものを紹介します。

小さなものを見つめていると、生きていてもいいと思う。
雨のしずく……濡れてちぢんだ革の手袋……
大きすぎるものを眺めていると、死んでしまいたくなる。
国会議事堂だとか、世界地図だとか……

本文より引用