安部公房『箱男』感想
初めて「壁」を読んでから安部公房にハマり、ほかの作品も読んでましたが、
「箱男」は 今まで避けてきました。特に難解と聞いていたので…
でもとうとう読んだので、忘れないように感想書きます。
(私の脳みそじゃ、理解はもちろん出来なかったけど)
ダンボール箱を頭からすっぽりとかぶり、都市を彷徨する箱男は、覗き窓から何を見つめるのだろう。一切の帰属を捨て去り、存在証明を放棄することで彼が求め、そして得たものは? 贋箱男との錯綜した関係、看護婦との絶望的な愛。輝かしいイメージの連鎖と目まぐるしく転換する場面(シーン)。読者を幻惑する幾つものトリックを仕掛けながら記述されてゆく、実験的精神溢れる書下ろし長編。
(Amazon内容紹介より引用)
内容
本の内容?構成?は、箱男本人が箱男についての記録をつけているというもの。
そのせいか、記録風なところもあれば、突然物語が始まったり、
途中で新聞記事や、はたまた写真まで挟まってます。
あらすじに書いてある通り、実験的精神溢れてますね。
とても斬新。小説ってなんだっけ。
箱男とは(の前に)
まずここが、わからないなりにも私のお気に入りポイントなんですけど、
箱男とは何かの前に、箱の製法から説明されます。
それはもう材料から作り方まで、詳しく説明してくれます。
これで明日から君も箱男だ!とか言われるんちゃうかなと思いました。(言われない)
まだ箱男が何者かもわからないのに。
特に面白かったのがここ。
雑踏に出向く機会が多い場合は、ついでに左右の壁に穴を開けておくのもいいだろう。(省略)
補助の覗き穴にもなってくれるし、音の方角を聞き分けるのにも好都合だ。穴は内側から開けて、ささくれを外に向けたほうが―見てくれは悪いが―雨じまいには有利なようである。(本文より引用)
そっか、穴を外から開けると雨が入ってくるんですね、なるほど~……
いや、なるほど~ちゃうわ。何がなるほどや。
…というセルフつっこみをいれました。
でも不思議なことに、何の役にも立たないはずなのに、
ライフハックの記事を読んでる気分になるんですよね。
まだ箱男が何者かもわからないのに。
箱男とは
箱男とは、箱をかぶって街中を徘徊する路上生活者。
全国各地にいる痕跡があるが、世間から無視されるため、話題にならない。
…街中で見つけちゃったら、めちゃめちゃ不気味ですね。
そんな箱男、石を投げられたり空気銃で撃たれたりする嫌われ者で、
誰が好き好んでやるんだって話になるんですが、動機はとても些細なものなのです。
その動機は読んでもらうとして、誰でも箱男になる可能性があるのですね。
怖い。
ストーリー
一応元カメラマンの箱男がひょんなことから看護婦と出会って~という話が軸ですが、
とにかくストーリーがわからない!難解!
というのもまず主人公がわからない、今誰が話しているのか(書いているのか)
そもそもどの場面が現実か空想かも、後半になるにつれわからなくなっていきます。
(途中で謎の寓話?や、謎の詩や写真も入ってくるし)
ここが箱男一番の難関だと思います…
逆にこの夢のようなあやふやな世界に入り込めたら、楽しめると思います。
テーマ
物語の構成なんかは難解で、なかなか掴みどころがありませんが、テーマは単純に
「見る側、見られる側」、または「匿名性」というキーワードが、
あちらこちらに散りばめられているように思いました。
文中でも、箱男の覗き窓からの眼差しが、
無防備な箱男にとっての、数少ない護身術の一つだといっても言い過ぎではないはずだ。
(本文より引用)
というのがあり、ほかにも写真に添えられた言葉で、
見ることには愛はあるが、見られることには憎悪がある。
(本文より引用)
というものがあります。
見ること(覗くこと)は暴力的なもの、見られることは不快で耐え難いものということが、
読んでいて印象に残りました。
ということは、箱をかぶって匿名性を保ち(他人に見られることなく)
そのくせ他人や世界を自由に覗き見ることができる箱男は、
特に悪いことをしてなくても、さぞかし疎まれる存在なんでしょうね…。
まとめ
正直な感想は、結局何だったんだろう……です。
色々思うところはあったはずなのに、読み終えると掴めない何かが残ってる…
そんな不思議な小説でした。
きっと読む人によって、解釈も楽しみ方も違うんでしょうね。箱男の印象も…
ちなみに個人的には、箱男ちょっといいなと思ってしまいました。
他人から見られず、自分の周りをすっぽり囲ったら安心するだろうなぁ……
はっ、危ない危ない。
最後に写真に添えられた言葉で、好きなものを紹介します。
小さなものを見つめていると、生きていてもいいと思う。
雨のしずく……濡れてちぢんだ革の手袋……
大きすぎるものを眺めていると、死んでしまいたくなる。
国会議事堂だとか、世界地図だとか……本文より引用