穴があったらこもりたい

詠坂雄二『人ノ町』感想

キノの旅 似た小説」で検索していて、見つけた小説ですが、
表紙が、私の大好きなアニメ「少女終末旅行」の原作者のイラストだったので、気がついたら買ってました。人生初ジャケ買い

そしてちゃんと?中身も面白かったです。今読み終えたばかりなのに、これから何回も読み直す予感がするほどに。

独特な世界観に浸りつつ、意味や意図を考えつつ、ゆっくり読んでほしい小説です。

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旅人は彷徨い続ける。文明が衰退し、崩れ行く世界を風に吹かれるままに。訪れた六つの町で目にした、人々の不可思議な営みは一体何を意味するのか。終わりない旅路の果てに、彼女が辿り着く、ある「禁忌」とは。数多の断片が鮮やかに収斂し、運命に導かれるようにこの世界の真実と、彼女の驚愕の正体が明らかになる。注目の鬼才による、読者の認知の枠組みをも揺さぶる異形のミステリー。
(「BOOK」データベースより引用)

 

内容

あらすじのとおりですが、今よりずっとずっと未来の話(たぶん)
文明が衰退し、昔の建物が遺跡として、わずかに残っている世界です。

だからといって、人々は苦しい生活をしているわけではなく、自分たちの町の風習や考え方の中で、わりと淡々と暮らしています。

そんな世界を、正体も旅の目的も謎な旅人が巡っていく話です。

 

世界観

こういうのって、ディストピア?SF?小説っていうんでしょうか。
どこか乾いていて淡々とした、だけど悲壮感はないような…

色々な町を巡り、その土地の文化や歴史に触れるところは、キノの旅に似ていますが、キノの旅よりは静かで寂しい感じ。
(ちなみに文体は、キノより人ノ町のほうが難しい)

文明が衰退した世界は、少女終末旅行に似ていますが、少女終末旅行と違って、普通に人々が生活していて、食料や資源もあって、明るい感じでしょうか。

さらに哲学的な部分もあって、刺さる人には刺さる世界観だと思います。私は大好物です。

 

旅人

物語の主人公?の旅人。分かっていることは以下。

・女性
・外套を着て、背嚢を背負い、旅をしている
・町に来て最初に、食堂を探してご飯を食べがち
・わりと好奇心旺盛(それで危ない目にあったり…)
・冷静で色々なことを知っている

……うん、情報少ないですね。名前もわからん。謎。

 

ミステリー

あらすじに「異形のミステリー」と書いてあって、期待して読み始めたのですが、最初は「確かに町ごとに、事件?謎?は起きるけど、異形ってほどでは…」と思ってました。ちょっとミステリー風味なロードノベルじゃないかと。最初は。

詳しくはもちろん言いませんが、もっと壮大な謎です。
ちょっと変わったロードノベルと思わせといて~です。裏切られます。良い意味で。

ただ、この小説がなんというか、すべてを書かない、行間を読むことが必要な小説なので、ちょっと想像力がいるかもしれませんが、ちゃんとこの世界のことも、旅人の正体も、すべて答えを出してくれているので、ぜひ読みだしたら、最後まで読んでほしいですね。

 

6つの町

旅人が巡る6つの町の感想を、それぞれ書いておきます。

 

【風ノ町】
いきなり「風来(フェンライ)」とかいう謎オブジェ?が出てきますが、たぶんイメージはこれですね。

 
 
 
 
 
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あと初っ端から、難しいですね。人の考え方、宗教……うーん……
……食堂のご飯が美味しそうでした。(諦めた)

卵をふんだんに使った炒め物と汁物に白米という素朴な組み合わせだ。彩りより実を取った印象で、量もある。旅人は勢いよく食べ始めた。
(本文より引用)

この小説に出てくる料理、どれも美味しそうです。お腹すく。

 

【犬ノ町】

犬だらけの町です。一見、猫島の犬バージョンに見えますが、もっと犬が生活に溶け込んでいるような印象です。

この町の「最初の犬」にまつわる歴史(神話?)があって、それを研究している学者がいます。

私が印象に残ったところは、最初に旅人を助けてくれた犬が最後どうなったか……
在り方?としては正しいのかなと思いましたが、いざ旅人と同じ立場になれば、自分はどういう気持ちになるだろうなぁ……

私たちは日頃思ったより、犬に感情や夢を、勝手に見てるのかもしれませんね。
わんこ可愛いからね。にゃんこも可愛いけど。

 

【日ノ町】

陽神の「玉座」と呼ばれる、めちゃくちゃにでかい、用途不明の謎の建物を中心に、人々が集まり、宗教ができ、町になっています。

この章は後半、まだ文明が栄えていたころの一端が、垣間見えます。さらに旅人の好奇心旺盛が過ぎるところと、「なんでそんなこと知ってんねん」っていう、ちょーーっとした違和感も。

案外この世界は、現代の末路なのか?てかなんで文明衰退したん?
そんな疑問が、ここらへんからちょっとずつ出てきます。

あと、ご飯が美味しそう。

 

【北ノ町】

旅人は極光(オーロラ)を見るため、この町を訪れます。つまりそういう場所。
氷河だらけの寒いところです。でも幻想的。

旅人は数日町にとどまるため、氷河を掘る「氷穴掘り」という仕事をすることに。
何を掘るかは、ネタバレなのでお口チャック……(古い)

ラストは衝撃。ちなみにこの話は、文庫版に書き下ろされたもので、このラストのおかげで、ある考察が捗ります。

あと、この町は蟹味噌を食べる習慣が無いらしいです。(また飯の話)
獲ったときに捨てちゃう。旅人のがっかりする気持ちは、よくわかります。

 

【石ノ町】

今までの町と違い、廃墟の町です。さらに、たまたま目的地が同じだった、医師、商人、旅人の3人で訪れます。

この町は、いたるところに石積みがあるという噂と、不老不死の人が住んでいたという噂があります。

3人はそれぞれ目的が違ったので、現地解散し、旅人は石積みを探しますが……?

かなり重要な章なので、詳しい感想はやめときます。
ただ、旅人の目的が切ない。

 

【王ノ町】

町……なんですけど、王がいます。
というより、人々をまとめたりして、町を作った人を、町の人々が尊敬して、王様として敬っている感じでしょうか。

でもちゃんと衛兵もいます。川があり、とても栄えている町です。

今までの章とは、ちょっと初っ端から、様子が違う感じ。
この最後の章で、すべての謎に答えがでます。あらすじにある「禁忌」も。

現代も、行きつく先はこの答で、この「禁忌」もできるのかなと思ったり……

最後の旅人の行動も、賛否分かれそうです。
私なら旅人のような行動はせず、現状維持を望むかもしれませんが……
他に読んだ人の感想を聞いてみたくなりますね。

 

まとめ

世界観を楽しんでも良し。裏や行間を読んでも良し。哲学的な部分に唸っても良し。
一冊で何回も楽しめる小説だと思います。お得感。

ただ、あんまり根詰めて読んでも疲れるので、最初はさらっと一回読むのが良いんじゃないでしょうか?まさに旅先とかで。

 

あと文庫版は、最後の方のページの小説紹介に注目。
こんな洒落たことできるんやね。