穴があったらこもりたい

安部公房『けものたちは故郷をめざす』感想

安部公房終戦後+満州=難しくてしんどい小説……と思って、
アホで歴史が苦手な私は、ずっと避けてきましたが、
図書館にあるのを発見して、つい借りちゃいました。

読んだ感想は、読みやすい!しんどい!!です(雑)
今まで読んだ安部公房の小説の中で、一番読みやすかったので驚きました。
ただ、しっかり不条理なので、元気なときに読むことをおすすめします……

 

そういや、前回のこころに引き続き、今回の本を読んだので、
ちょいしんどくなって、気分を変えようと映画を見たんですけど、
何を思ったかレオンを選んでしまいまして。アホですね。
でもレオンは良かったです。観葉植物育てたくなりました(何の話)

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Dave NoonanによるPixabayからの画像

満州に育った少年・久木久三は一九四五年の敗戦、満州国崩壊の混乱の中、まだ見ぬ故郷・日本をめざす。極限下での人間の存在を問う、サスペンスに満ちた冒険譚。故郷、国家…何物にも拘束されない人間の自由とは何か。安部文学の初期代表作。
(「BOOK」データベースより引用)

内容

あらすじの通り、久三がまだ見ぬ故郷、憧れの日本を目指して旅をする、
ロードムービー的な(ムービーじゃないけど)内容です。

あらすじだけ見ると、少年の切実な夢……!冒険……!てな感じですが、
実際は荒野を、信用のおけない、素性がわからない男と二人で、
極限状態の中、ひたすら歩くという内容がほとんどです。

つらい。

 

極限状態

寒さ、飢え、渇き……どれも経験したことがなく、共感できないはずなのに、
読んでいるとこちらまで辛くなるほど、極限状態の描写がリアルです。

砂の女」とはまた種類の違う、息苦しさというか孤独感というか……

だからといって、「つら…もう読めね……」ってなることもなく、
次々読み進められるのが不思議です。

 

ちなみにこの間、朝から雨で、靴下までぐしょ濡れで一日を過ごし、
雪が降りそうな中バイクで帰りましたが、
荒野を歩く久三を思うと、まったく辛くなくなりました。むしろ天国。
……比べるもの間違いましたね。ちっさいですね。

 

久三と謎の男

久三が道中出会うのが、素性の謎な男、高石塔(最初は汪という名前)

最初、久三と出会う場面では、落ち着いていて機転が利きそうだし、
眼鏡をかけて、本を読んでいて、
久三も「学校の先生みたい」と思うほどに、まともに見えて、
もしかしたらこの人のおかげで良い方向に……?と、
一瞬思いましたよ。一瞬。

まぁ、そんなわけはなく……

どんな人だったのかは、詳しくはネタバレになるので書きませんが、
とにかく生命力の強い、狡猾な人です。

 

対して久三は真逆で、純粋に日本に帰りたい一心の、まっすぐな少年です。

二人の性格は、
極限状態で、やっと馬車に乗せてもらうのに、有り金全部差し出そうとする久三を、
高がすぐに止めて、安い金額を言うところなどに、よく表れていると思いますね。

 

高のことは信用していないけど、高に何か考えがありそうなのと、
「一人よりは二人の方が……」という感じで、高と行動します。

しかしね……何回読みながら、
久三そいつ絶対怪しいって!もう置いてけ!……と思ったことか。

でも久三も、私に言われなくたって(?)たぶんわかってるんですよね。
それでも憎みながら、怪我で死にかけてる高を助けたりするし、
高がいなくなれば不安になったりもします。

そして、あんなに久三につっこんでた私も、高がいない場面では、
まさかの不安な気持ちになったり……

なんでしょうね……怪しいと頭ではわかっていて、憎みながらも、
離れられない様子が、恐ろしいです。

 

故郷と日本人

私は生まれ育った町から出たことが無いので、外に出てみたいという気持ちはあれど、
故郷に帰りたい気持ちというのは、いまいちピンときません。

なので、久三の切実な日本への気持ちが、すべて理解はできないのですが、
理解できない理由がもう一つあって。

それが、久三を拾ったソビエト軍の人たちが、良い人だったということ。
特にアレクサンドロフ中尉という人が、作中一番の良い人物です。もう本当に。

私なら日本に憧れながらも行動できず、そのまま満州で暮らしそうですが、
久三の故郷への思いの強さが、ロシアの人が良い人ほど、伝わりました。

 

あと作中やりきれないのが、
上記のアレクサンドロフ中尉や、あと途中で出会う中国人の少年など、
日本人以外の人は、良い人、または普通の人が多いのに対し、
出てくる日本人が、みんな印象が悪いこと。

久三の憧れている日本ってなんなんだろう……と思わされてしまいます。

 

まとめ

さてさて、久三たちは無事、
日本にたどり着くことができるのか……!?(無理やり明るく)
……とか思いながら読んでたら、ラストがとんでもなかったです。

途中も「けものたちは故郷をめざす」というタイトルぴったりだと思っていたけど、
最後まで読んでタイトルを見ると、なんかぞくぞくしました。

 

 
【追記、おまけ】
高……ていうより最初の方の汪さんを、勝手なイメージで落書き。難しい……
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もっと感じ悪いかな……でも、表向きは良さげだと思うんですよ表向きは。
現実にいたらかなわんけど、キャラクターとしてはこういう人好きです。