森博嗣『スカイ・クロラ』感想
映画にもなった、森博嗣の有名な小説です。
私もだいぶ前にシリーズ全部読みましたが、内容を綺麗に忘れてしまったので、
もっかい借りて読みました。
しかし、面白かったという記憶はしっかりあるのに、内容を思い出せないって…
まっ、まぁ、もう一度楽しめると考えると、忘れっぽいのも得かもしれませんね。
そういうことにしておきます。
僕は戦闘機のパイロット。飛行機に乗るのが日常、人を殺すのが仕事。二人の人間を殺した手でボウリングもすれば、ハンバーガも食べる。戦争がショーとして成立する世界に生み出された大人にならない子供―戦争を仕事に永遠を生きる子供たちの寓話。
(「BOOK」データベースより引用)
内容
戦争がビジネスになっている世界で、歳をとらない子供(キルドレ)が、
戦闘機に乗って戦う…
ストーリーだけ見ると、殺伐とした感じというか、緊張感がありそうですが、
実際は大きな事件もほとんどなく、淡々と物語が進んでいくのが新鮮でした。
人を殺して、自分も殺されるかもしれないのに、どこか達観というか渇いた感じの、
主人公の日常を見ているというのが、しっくりくる気がします。
あ、あと、このスカイ・クロラは、出版順では1番最初ですが、
時系列で言うと、最後から2番目です。(最後はスカイ・イクリプスという短編集)
そして時系列の1番最初は、ナ・バ・テアです。
なので、出版順で読むか、時系列順で読むか選べるわけです。
スターウォーズみたいやね。
(ちなみに私は、内容をほとんど忘れるというチャンス?に恵まれたのに、
昔読んだ時と同じく、スカイクロラから読み始めちゃいました。もったいねぇ)
戦闘シーン
スカイクロラの魅力はいくつかありますが、その中の1つが戦闘シーンです。
短い文章(もしくは単語?)に、いくつも改行を入れて書かれています。
大きく息を吸う。
そして止める。
左に反転。
上昇してくる相手の前方へ出る。すぐに右に反転。
撃ってきた。
(本文より引用)
なんか、緊張感ありますよね。
必要最低限の言葉を、区切って書かれているのが、
緊急時に短いやりとりをするような感じで、この臨場感が好きです。
まぁ、飛行機の用語とかはわからないので、そこは雰囲気で読んでますが。
ほかにも戦闘以外の緊迫したシーンや、主人公が考えを巡らせているシーンなどで、
こういう緊張感ある文章になっていました。
謎
スカイクロラのは、主人公のパイロット、カンナミ・ユーヒチのほかにも、
たくさん個性的な人物が登場します。
その中には、これからの物語で重要な人物や、素性が謎な人物も出てきます。
この人間関係や人物の謎が多いところも、魅力の1つだと思います。
また、物語が主人公のカンナミ視点で進むことと、説明が少ないことで、
なかなか真相が見えてきませんが、それを読み進めるのも面白いです。
それともう1つ大きな謎が、大人にならない子供、キルドレの存在。
こちらも説明が全然されませんが、物語の途中で手掛かりのようなものが、
いくつか出てきます。
キルドレとはどういう存在で、どうやって生まれたのか…
この世界の戦争って、どういうものなのか…
そういうところを考えるのも面白いです。
食事のシーン
これは私だけかもしれませんが…
日常の場面、特に食事シーンの雰囲気がめちゃ好きです。
主人公が同僚のバイクの後ろに乗って、基地から街へ向かうシーン。
道の途中にある店で、ミートパイと苦いコーヒーを頼むのですが、
このシーンがなんというか…うまく言えないけど、本当に良い雰囲気なんです。
店内は煙草の煙と、スローテンポのロックが充満していて、
外にはネオンで黄色に染まったテラスが見える…
この店現実にあったら絶対行きたいと、心底思いました。
ほかにもボーリング場で、コーラとハンバーガーを食べるシーンなど、
なんてことない日常の場面が、本当に魅力的なんです。
あ、思い出したらコーヒーかコーラ飲みたくなってきた。
まとめ
複雑な人間関係に、たくさんの謎。
戦闘シーンの緊迫感や、死生観。
自分も空にいるようなすがすがしさや、なんてことない日常の場面など、
いろいろな要素はあるけれど、全体的には乾いていて落ち着いた雰囲気でした。
この世界の戦争とは?とか、キルドレって?とか、この人は何者?とか、
気になるところも多く、それを考えるのも楽しいですが、
個人的にはこの世界観にどっぷり浸るのも楽しいし、
何故かわからないけど、なんとなく癒しになるなぁと感じました。
とりあえず全シリーズ、読んでみようと思います。