穴があったらこもりたい

森博嗣『スカイ・クロラ』感想

映画にもなった、森博嗣の有名な小説です。
私もだいぶ前にシリーズ全部読みましたが、内容を綺麗に忘れてしまったので、
もっかい借りて読みました。

しかし、面白かったという記憶はしっかりあるのに、内容を思い出せないって…
まっ、まぁ、もう一度楽しめると考えると、忘れっぽいのも得かもしれませんね。
そういうことにしておきます。

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Subhodeep NathによるPixabayからの画像

僕は戦闘機のパイロット。飛行機に乗るのが日常、人を殺すのが仕事。二人の人間を殺した手でボウリングもすれば、ハンバーガも食べる。戦争がショーとして成立する世界に生み出された大人にならない子供―戦争を仕事に永遠を生きる子供たちの寓話。
(「BOOK」データベースより引用)

 

内容

戦争がビジネスになっている世界で、歳をとらない子供(キルドレ)が、
戦闘機に乗って戦う…

ストーリーだけ見ると、殺伐とした感じというか、緊張感がありそうですが、
実際は大きな事件もほとんどなく、淡々と物語が進んでいくのが新鮮でした。

人を殺して、自分も殺されるかもしれないのに、どこか達観というか渇いた感じの、
主人公の日常を見ているというのが、しっくりくる気がします。

 

あ、あと、このスカイ・クロラは、出版順では1番最初ですが、
時系列で言うと、最後から2番目です。(最後はスカイ・イクリプスという短編集)
そして時系列の1番最初は、ナ・バ・テアです。

なので、出版順で読むか、時系列順で読むか選べるわけです。
スターウォーズみたいやね。
(ちなみに私は、内容をほとんど忘れるというチャンス?に恵まれたのに、
昔読んだ時と同じく、スカイクロラから読み始めちゃいました。もったいねぇ)

 

戦闘シーン

スカイクロラの魅力はいくつかありますが、その中の1つが戦闘シーンです。
短い文章(もしくは単語?)に、いくつも改行を入れて書かれています。

大きく息を吸う。
そして止める。
左に反転。
上昇してくる相手の前方へ出る。すぐに右に反転。
撃ってきた。
(本文より引用)

 なんか、緊張感ありますよね。
必要最低限の言葉を、区切って書かれているのが、
緊急時に短いやりとりをするような感じで、この臨場感が好きです。

まぁ、飛行機の用語とかはわからないので、そこは雰囲気で読んでますが。

ほかにも戦闘以外の緊迫したシーンや、主人公が考えを巡らせているシーンなどで、
こういう緊張感ある文章になっていました。

 

スカイクロラのは、主人公のパイロット、カンナミ・ユーヒチのほかにも、
たくさん個性的な人物が登場します。
その中には、これからの物語で重要な人物や、素性が謎な人物も出てきます。

この人間関係や人物の謎が多いところも、魅力の1つだと思います。

また、物語が主人公のカンナミ視点で進むことと、説明が少ないことで、
なかなか真相が見えてきませんが、それを読み進めるのも面白いです。

それともう1つ大きな謎が、大人にならない子供、キルドレの存在。
こちらも説明が全然されませんが、物語の途中で手掛かりのようなものが、
いくつか出てきます。

キルドレとはどういう存在で、どうやって生まれたのか…
この世界の戦争って、どういうものなのか…
そういうところを考えるのも面白いです。

 

食事のシーン

これは私だけかもしれませんが…
日常の場面、特に食事シーンの雰囲気がめちゃ好きです。

主人公が同僚のバイクの後ろに乗って、基地から街へ向かうシーン。
道の途中にある店で、ミートパイと苦いコーヒーを頼むのですが、
このシーンがなんというか…うまく言えないけど、本当に良い雰囲気なんです。

店内は煙草の煙と、スローテンポのロックが充満していて、
外にはネオンで黄色に染まったテラスが見える…

この店現実にあったら絶対行きたいと、心底思いました。

ほかにもボーリング場で、コーラとハンバーガーを食べるシーンなど、
なんてことない日常の場面が、本当に魅力的なんです。

あ、思い出したらコーヒーかコーラ飲みたくなってきた。

 

まとめ

複雑な人間関係に、たくさんの謎。
戦闘シーンの緊迫感や、死生観。
自分も空にいるようなすがすがしさや、なんてことない日常の場面など、
いろいろな要素はあるけれど、全体的には乾いていて落ち着いた雰囲気でした。

この世界の戦争とは?とか、キルドレって?とか、この人は何者?とか、
気になるところも多く、それを考えるのも楽しいですが、
個人的にはこの世界観にどっぷり浸るのも楽しいし、
何故かわからないけど、なんとなく癒しになるなぁと感じました。

とりあえず全シリーズ、読んでみようと思います。