穴があったらこもりたい

伊坂幸太郎『フーガはユーガ』感想

伊坂幸太郎は昔好きで(特に死神の精度、マリアビートル)よく読んでいましたが、
最近読んでないなぁ~と思って、たまたま目に留まったものを借りてみました。

伊坂幸太郎の作品を読んだことある人なら、わかるかもしれないけど、
今回のは特に、感想を書けば書くほどネタバレに寄っていっちゃうかも……
あんまり知りたくない人は気を付けてください。

というかまっさらな状態で読んでほしいので、できればこんな感想読まずに、
すぐに本屋か図書館へGO!(じゃあ書くな)

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Horst WinklerによるPixabayからの画像

常盤優我は仙台市のファミレスで一人の男に語り出す。双子の弟・風我のこと、決して幸せでなかった子供時代のこと、そして、彼ら兄弟だけの特別な「アレ」のこと。僕たちは双子で、僕たちは不運で、だけど僕たちは、手強い。
(「BOOK」データベースより引用)

内容

優我がファミレスで、双子の特殊な能力の「アレ」について、
取材を受けているところから物語が始まり、終盤まで続きます。

なのでこの小説の内容の大半は、思い出話……というか、
ファミレスで男に語っている内容になります。

 

特殊能力と聞くと、SFとか、なんかの組織との戦いとかの話っぽいですが、
どこかであるかもしれない、日常の話です。
まぁ……こんな日常あってほしくない、あってたまるかって感じですが……

 

特殊な能力の「アレ」

その能力が双子に目覚めた…というか起こったのが、まだ双子が小さいころ
弟の風我が、父親に暴力を振るわれていた時、
兄の優我が、助けたい、変わってあげたい、と思ったときに起こります。

その日は双子の誕生日。
それからしばらくは起こったり、起こらなかったりするものの、
のちに誕生日の日だけ、2時間おきに「アレ」が起こるようになります。

 

 

そろそろ読みたくなった人は、
このブログを閉じて街に繰り出しているか、
Amazonだか楽天だかでポチッとしていると思うので、
「アレ」が何なのか言うと、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入れ替わりです。瞬間移動ともいうかな?
優我が変わってあげたいと思った次には、自分が殴られていたんです。

 

双子の境遇

子供のころに父親に殴られている時点で、もうわかっていますが、
双子の境遇は良くないです。というか過酷。

それもあの父親、いやクソ親父のせいなんですけどね!!(怒)
伊坂幸太郎に出てくる悪者は、本当に徹底して悪くて、
読んでいる間は、本を閉じたくなるほどムカムカしますが、
ここまで憎い悪を書けるなんてすごいなぁ…といつも思います。

 

話を戻すと、そんなとても良いとは言えない環境にいる双子ですが、
運動が得意で元気な風我と、勉強が得意で落ち着いている優我は、
一心同体、二人で生きていきます。

そしてなぜか起こる、一年に一度の能力を使い、
自分たちを助けたり、周りの人を助けたり、悪いヤツを懲らしめたり、
何より、二人の時間を共有します。

もちろん二人はそっくりなので、入れ替わることは誰にもバレません。

 

重い話

入れ替わりの能力はわくわくしますが、全体的には重いです。
というのも、双子の問題は父親だけでなく、
胸くそ悪い事件が、いくつも起こるからです。
(それを能力で助けたり、切り抜けたりするんですが…)

 

それでも読み進められた理由はいくつかあって、
一つは双子のたくましさ。
過酷な状況でも悲観的なことは言わず(とくに風我。元気)
なんなら会話は軽妙で、言い回しや洒落が面白いです。

もう一つは、悪い人ばかりじゃないところ。
いじめられっ子のワタボコリ(あだ名)や、風我の彼女の小玉、

そして私が一番好きな登場人物、
双子が中学生のときに働く、リサイクルショップの店長、
通称「岩窟おばさん」
岩窟おばさんは、変人で素性は謎、偏屈ですが、
この小説のなかで、一番大人だと思いました。
特に、人にお金を貸すことの意味を、
わかりやすく、そして重く双子に教えてくれるシーンは、
とても心に残りました。

こういう人が身近にいたら良いなぁと思いました。
まぁ決して良い人ではないですが。

 

まとめ

文章自体は読みやすいですが、本当に内容は重くて、救いがないです。
ラストも、今までの伊坂幸太郎の小説と比べれば、
そんなに爽快でもないかもしれません……

でも最後まで読んで良かったと思える作品でした。

 

そしてちゃんと、伏線がいたるところにあり、回収されます。
特に思わせぶりなところは、冒頭ファミレスで男に優我が、
「言っておきますけど、僕がしゃべることには嘘や省略がたくさんあります」
と言うところでしょうか。

長い話なのに、現実はファミレスでの数時間というところも面白いですね。

ここまで感想を読んでくれて、かつ未読な人は、
色々と推理しながら読んでみるのも、面白いかもしれません。