穴があったらこもりたい

夏目漱石『こころ』感想

有名な日本文学?は、人間失格しか読んだことなかったし、
夏目漱石は、私が学生のときの授業ではなかったし、
あらすじもよく読まなかったので、先入観まったくなしで読みました。

読んだ後、「こころ」という題名が、腑に落ちるような小説です。

 

関係ないけど、昼休みに読んでいたら上司に、
「えっ、こころ、なんで?」って言われて、
「なん……なんで……?」てなりました。
そういやあらすじも知らないのに、なんで読もうとしたんだっけ……
自分のことながら、きっかけが謎です。

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yamabonによるPixabayからの画像

「私」は、鎌倉の海で出会った「先生」の不思議な人柄に強く惹かれ、関心を持つ。「先生」が、恋人を得るため親友を裏切り、自殺に追い込んだ過去は、その遺書によって明らかにされてゆく。近代知識人の苦悩を、透徹した文章で描いた著者の代表作。
(「BOOK」データベースより引用)

内容

内容は、上・中・下で分かれています。

上は「先生と私」
「私」が鎌倉の海で「先生」と出会って、交流を始める。

中は「両親と私」
「私」の父親の腎臓病が重くなり、実家に帰省する。
そこへ先生から分厚い手紙(遺書)が届く。

下は「先生と遺書」
内容すべてが先生の手紙。誰にも言わなかった先生の過去の話。

……というのが、大まかな流れです。

 

先生と「私」の関係

なにかと考えさせられ、重いところが多い「こころ」ですが、
まずは面白かった「私」と先生の関係について。

 

見ず知らずの学生と大人が、偶然出会ってその後も交流って、
どんだけ意気投合したんだって感じですが、まったく違いまして。
「私」がめちゃくちゃ追いかけるんですよね、先生を。
海でのくだりなんか、ストーカーかとつっこみたくなるほど。

それなら、学生の「私」が、
見ず知らずの大人を「先生」と呼んで、強く関心を持つほど、
先生はすごい人なんだなぁ、と思いますが、これも違います。

確かに先生は、教養があって落ち着いていて、魅力的ですが、
でも学校の教師というわけではなく、というか無職です。

さらに厭世的で人嫌い、誰も(自分も)信用しようとしません。

 

それでも先生に惹かれる「私」は、しょっちゅう先生の家に行き、
先生も「私」を、拒みはしませんが、歓迎もしません。
でもだんだん、ほんの少しだけ、仲良くなってるようにも見えたり……?

この師弟や友人などとは違う、名前の付けられない、
不思議な関係が面白かったです。

 

先生の謎と伏線回収

先生にはいくつか謎なところがあります。
書き出してみると、

・月に一度、友人の墓参りをしているが、必ず一人で行く
(「私」はもちろん、奥さんも連れて行かない)

・「私」になぜか、遺産相続の忠告をする。

・厭世的になったのは、友人の死がきっかけ(奥さん曰く)

・過去をまったく話さない。

……など。

こういった謎が、後半の先生の手紙で、すべて明らかになります。
謎が解ける「そうだったのか!」という気持ちと、
しんどさが同時にくるので、変というか…複雑な気持ちになりました。

 

登場人物への共感

「こころ」の魅力であり、読んだ後のしんどさの原因が、
登場人物の心情がリアルなところだと思います。

個人的には、どの人に焦点を当てて読むか、
また、その人をどう見るか(肯定するかしないか)で、
かなり感想が変わってくると思います。

 

例えば、若者なら、
帰省した「私」が田舎の風習とか空気が、煩わしく感じたり、
つい、「私」が自分の父親と、先生とを比べるところなどに共感するかもだし、

親なら、大学を卒業した息子を喜ぶ父親や、
いろいろ心配する母親に共感するかもしれません。

他にも先生の奥さんの心情、先生の親友Kの心情……
読む人によって、捉え方も注目する登場人物も違うと思うので、
そこが面白いと思いました。

ちなみに私の考えは「私」寄りなのか、
どうしても先生は嫌いになれませんが、
読む人によっては否定的な人もいるだろうなぁ~と思ったり。

 

綺麗な文章

本当はこの小説の大半を占める、先生の手紙について書こうと思いましたが、
ネタバレになるし、この気持ちは上手くまとまらないので、
代わりに文中の言葉を紹介します。

しかし……しかし君、恋は罪悪ですよ。解かっていますか
(本文より引用)

私は死ぬ前にたった一人で好いから、他(ひと)を信用して死にたいと思っている。
あなたはそのたった一人になれますか。なってくれますか。
あなたははらの底から真面目ですか
(本文より引用)

なんというか……文章というか言い回しというか……
切なくて寂しくて、ほんと綺麗で……

ただでさえ内容が心にくるのに、文章が全部綺麗で、
上手く言えないけど、心臓キュッてなります。

あなたの知っている私は塵に汚れた後の私です。
(本文より引用)

他に愛想を尽かした私は、
自分にも愛想を尽かして動けなくなったのです。
(本文より引用)

このように、悲しい言葉でさえ綺麗なので、
この文章で何か感じた方は、ぜひ読んでみて欲しいです。

 

まとめ

昔の小説なので、読みにくいんじゃないかと思いましたが、
知らない言葉はあれど、意外とすんなり読めました。

救いのない話ではありますが、
先生が「私」と出会えたことは、救いだったのかなぁと思ったり、
しかし、「私」と出会ったことによって、先生は遺書を書いてしまったわけで、
先生の遺書をもらった「私」の心中を考えると……うーん……

色々な人の思い、まさしく「こころ」に疲れてしまいましたが、
読んで良かったと思える小説でした。

 

 

ここからものすっごい余談ですが、この先生の言葉

平生はみんな善人なんです。
少なくともみんな普通の人間なんです。
それが、いざという間際に、急に悪人に変るんだから恐ろしいのです。
(本文より引用)

これを読んで、とあるセリフをふと思い出して、
それが映画ダークナイトの、バットマンの宿敵、ジョーカーの

善良なのは世の中がまともな時だけだ。
見てろよ、いざ追い込まれりゃ、
いわゆるその、文明人って奴だって殺し合いを始める

というセリフ。まぁ全然違うんですよ?全然違うんですけど、
意外と意味合いは似てる気がして……
言う人でここまで変わるんだなぁと思いました。

ちなみに先生のこの言葉は、全部読む前と後では、印象がかなり違います。
こういうところがあると、また読み返したくなりますね。