穴があったらこもりたい

伊坂幸太郎『死神の精度』感想

前回に引き続き、またまた死神です。

l84blog.hatenablog.com

個人的に伊坂幸太郎の小説の中で、一番好きな小説です。

同じ死神でも、前回の死神と比べると、
タイトルも本の表紙もクールで、ちょっと難しそう?な印象ですが、
死を扱うのに、良い意味で軽くて読みやすく、ユーモアもあって面白いです。

短編集なので休憩時間に、できることなら雨の日に読んでもらいたい小説です。

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Photo by Rene Böhmer on Unsplash

 CDショップに入りびたり、苗字が町や市の名前であり、受け答えが微妙にずれていて、素手で他人に触ろうとしない―そんな人物が身近に現れたら、死神かもしれません。一週間の調査ののち、対象者の死に可否の判断をくだし、翌八日目に死は実行される。クールでどこか奇妙な死神・千葉が出会う六つの人生。
(「BOOK」データベースより引用)

内容

この小説の死神は、
病死や自殺以外の、不慮の事故や殺人で死ぬ予定の人を一週間調査し、
「死」を実行するかどうかを判断し、報告するのが仕事です。

その死神の中で、「千葉」と呼ばれている、真面目で雨男な死神と、
調査対象の6人との話です。

 

調査対象の人々

死神、千葉さんの調査対象者は、以下のような人たちです。

苦情処理の部署で働く、暗くて冴えない女性
・弱きを助け強きをくじく、任侠やくざ
・吹雪の中の洋館に、夫婦で泊まっていた夫人
・片思い中の青年
・人殺しで逃亡中の青年
・美容院を営む老女

……年齢、性別、性格もバラバラです。
なので、千葉さんが一週間調査するという話は変わらないのに、
話によって、恋愛もの、密室殺人ミステリー、ロードムービー風?など
テイストが変わるので、お得感がある面白いです。

 

また千葉さんは、対象者の死を実行するかどうか、
一週間の調査後、「可」か「見送り」かを判断し、
「可」の場合、八日目に実行される死を見届けて、仕事を終えます。

しかし、私たち読者がわかるのは、「可」か「見送り」かの判断だけ。
八日目に対象者が、どんな最期を迎えるかはわからず、想像が膨らみます。

 

あと、一見するとバラバラな短編集ですが、実は……?
これ以上はネタバレなので、ぜひ読んでみてほしいです。

 

死神、千葉

この小説の魅力はなんといっても、死神の千葉さんです。

最初にも書きましたが、あくまで死を扱う、人が死ぬ物語なのに、
どこかからっと乾いていて、なぜか温かい気持ちになるのは、
千葉さんのキャラクターのおかげでしょう。さん付けにもしたくなる。

 

そんな千葉さんの特徴?魅力?を、紹介します。
※好きなあまり、ちょっとだけ詳しく書いちゃったので、まだ読んでない方は注意!すまない!

 

①真面目でクール

死神の中には、対象者の残り少ない時間を、
せめて楽しませてあげようと、色々演出する死神もいますが、
千葉さんは、人間と、人間の死に興味がないので、
必要以上に関わろうとしません。

また、だいたいの死神が「可」を出しますが、
千葉さんは真面目なので、一応きちんと調査しようとします。

この淡々とした仕事ぶりが、物語を良い意味で、
乾いた空気にしているのかなぁと思いました。

……まぁ、晴天を見たことがないというぐらい雨男なので、
天気的にはじめじめしてますが。

 

②人外味がある(当たり前)

千葉さんたち死神は、見た目は人間ですが、

・対象者に合わせて、年齢や見た目が変わる
・人間に素手で触ると、気絶させてしまう
・睡眠の必要がなく、何時間も立ちっぱなし、動きっぱなしでも平気
・食事の必要がなく、味がしない
・電話の電波を拾える(聞ける)
・痛みを感じず、怪我もせず、殴られても平気

など、当たり前ですが、明らかに人間ではありません。
性格もですが、こういった死神の特徴もあるので、
読者も死に引っ張られすぎず、人外の目線で、
客観的に読めるのかなぁと思いました。

 

③無類の音楽好き

これは千葉さんだけでなく、死神みんなですが、
無類の音楽(ミュージック)好きです。

ジャンルはなんでもよく、下手すると、仕事の合間に聴くというより、
音楽を聴く合間に仕事をしているらしい。

いつでも、ラジオ、ラジカセ、店内のBGMなど、音楽を聴く機会を探していて、
CDショップに行けば、誰か同僚に会えるというほど。

「人間が作ったもので一番素晴らしいのはミュージックで、
もっとも醜いのは、渋滞だ」

という名言?も残しています。

 

④天然&ズレる会話

これは個人的に、この小説で一番好きなところなのですが、
千葉さんは人間に興味が無いので、人間の感覚がいまいちわからなかったり、
人間には当たり前のことを、知らなかったりします。

結果、クールなのに、天然キャラになっています。

そんな千葉さんのズレた会話を少し紹介すると、

・「わたし、醜いんです」に対し、「いや、見やすい」「見にくくはない」
・甘く見てると吹雪長引くかも、に対し、「甘い?吹雪に味があるんですか?」
・ステーキを食べている人に対し、「死んだ牛はうまいか」

その他にも、
出前を頼んだことが無いので、ピザを自分が頼むと言い、
注文方法を教えてもらったり、
車にガソリンを入れることを知らなかったりと、何かとズレています。

本人は真面目に仕事をしているだけなのに、面白いと言われてしまうので、
ちょっとかわいそうな気もしますが、やっぱり面白いです。

 

まとめ

短編集で軽く読めて、ユーモアもあって、温かいのに、
ちゃんと死について考えさせられる小説でした。

千葉さんは死神で、人間に興味はありませんが、
たまに人間の考えや言葉に感心したり、
綺麗な景色に感動(これも感心?)したりと、
すこーーし人間味もあるところも良かったです。

短編集じゃない続編もあるので、また感想書こうかな。