穴があったらこもりたい

知念実希人『優しい死神の飼い方』感想

出かけた先に偶然図書館があり、時間つぶしに偶然立ち寄り、
偶然手に取った本が面白くて、半分以上読んだものの、
時間が無くて泣く泣く帰ったのが、2、3年前。

すっかり忘れてたけど、最近急に思い出したので、お正月に読んでました。

心を温めたい人と、犬好きの人にはおすすめです。

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ECondessaによるPixabayからの画像

犬の姿を借り、地上のホスピスに左遷…もとい派遣された死神のレオ。戦時中の悲恋。洋館で起きた殺人事件。色彩を失った画家。死に直面する人間を未練から救うため、患者たちの過去の謎を解き明かしていくレオ。しかし、彼の行動は、現在のホスピスに思わぬ危機を引き起こしていた―。天然キャラの死神の奮闘と人間との交流に、心温まるハートフルミステリー。
(「BOOK」データベースより引用)

内容

この小説の中の死神は、人が死んだら魂を案内する役目です。
しかし、現世に未練を残すと、その案内を拒む「地縛霊」になってしまいます。

地縛霊を減らすには、彼らが生きているうちから接触でもしない限り困難だ、
そう上司にうっかり言ってしまった死神が、ゴールデンレトリバーの姿にされて、
未練のある人だらけのホスピスで奮闘する話です。

 

余談ですが、私が今ぱっと思いつく死神は、
デスノートリュークグレゴリーホラーショーの死神、
死神の精度の千葉……ぐらいでしょうか。

真面目に働く(?)死神って意外と多いですね。リュークは違うけど。

 

地縛霊予備軍の患者たちと、ホスピスの謎

ホスピスで働く優しい女性、菜穂に拾われたレオは、
不治の病に冒され、最後の時を過ごしている患者を、未練から解き放っていきます。

その方法は、患者の夢の中に入り、その未練と向き合わせること。

過去は変えられないし、寿命が延びるわけでもないですが、
未練としっかり向き合って、思い込みを変えていくことで、
ちゃんと救われていくところが、とても良かったです。

あと患者は、夢の中でレオに諭されて救われていきますが、
現実の何の関係もない(はず)のレオにも、あからさまに対応が良くなるのが、
面白いというか、微笑ましかったです。

 

そして、暖かい話だけではなく、ミステリーもあります。
私は最初、一人ずつ患者の未練を解き放っていくエピソードが集まった、
短編集のような構成だと思っていたのですが……
(そのわりには、ホスピス自体にかかわる話が多いなぁと思ったけど)

あんまり言うとネタバレになるので、ここまでにします。

 

死神のレオ

ハートフルミステリーな物語も良いですが、
死神のレオのキャラクターも、とても魅力的です。

性格は仕事に真面目、
「この地上に降り立った、高貴な霊的存在」と自分で言っているように、
自信満々誇り高いです。

そして人間にあまり興味がなく、「舶来言葉」が嫌いなので、
人間界のことを知らないこともあって、結果天然キャラになってます。

 

そんな、人間のことを「下賤な人間」と、下に見ているレオでしたが、
いろんな患者や、特に優しい菜穂と接しているうちに、
どんどん心境が変わり、人間らしくなっていく過程も見どころです。

個人的には、自分が特別な存在だと悟られないために、
犬らしい行動をとっているだけだと言いながら、
ビスケットを前によだれたらたらで、お手をしちゃうところや、
自分の考えとは裏腹に、嬉しいと尻尾を振り、怒られるとお腹を見せるなど、
どんどん犬っぽくなっていくところも見どころです。

 

まとめ

前半は暖かい話で、後半はハラハラさせられ、ラストはやっぱり暖かい。
寒い冬に、コーヒーやココアをお供に読むのがぴったりの小説でした。

全体的にはハートフルですが、途中で起こる事件は結構サスペンスなので、
そのギャップも楽しめました。

 

おまけ、働く死神……?

最初にもちらっと言いましたが、人間界で働く死神の小説といえば、
知ってる人ならすぐ思い浮かぶでしょう。

そう!伊坂幸太郎「死神の精度」です!

 

l84blog.hatenablog.com

 

死神の千葉さんも真面目で、人間に興味がなく、天然キャラで、上司や同僚がいて、
最初、レオ、千葉さんとそっくりだな…と思いながら読んでいたのですが、
途中から、やっぱり違う!と思いました(作者も違うので当たり前だけど)

一番の違いは、心情の変化でしょうか。
レオはどんどん人間味があふれてきますが、
千葉さんは変わらず、あくまで仕事として人間に関わります。

仕事内容も、
レオは本来の仕事とは違うものの、人間を救うのが目的ですが、
千葉さんは、対象の人間が死ぬべきか調査するのが目的です。

あと細かいことを言うと、
レオは犬の体に入っているので、痛みを感じますが、
千葉さんは人に化けているので、痛みは感じません。
なので、殴られれば痛がるフリをします。

 

どちらの小説も、死神が人間に関わって仕事をする話で、
設定は似てますが、内容や印象は全然違うので、
片っぽ読んでる人は、二人の死神を比べながらもう片っぽ読むと、
面白いかもしれません。