穴があったらこもりたい

森博嗣『銀河不動産の超越』感想

私は図書館に行くとき、「これを借りるぞ!」と決めて行きます。
(選ぶ時間で疲れるし、お家でゆっくり読みたいので)
でもこの本は珍しく、たまたま手に取って最初の三行読んで借りました。
私のように無気力な人は、きっとみんな最初の三行で読みたくなります。
…言い過ぎかな?

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PIRO4DによるPixabayからの画像

 危険を避け、できるだけ頑張らずにすむ道を吟味し、最小の力で人生を歩んできた高橋青年。彼の運命を変えたのは、入社した「銀河不動産」だった。奇妙な「館」、衝撃の連続。究極の森エンターテインメント。
(「BOOK」データベースより引用)

 

内容

森博嗣の小説は、女王の百年密室ヴォイド・シェイパスカイ・クロラが好きです。
なので、今回もミステリかSFか…と想像していましたが、全然違いました。

優しくてゆるーい感じ。ジャンルは日常?ファンタジーになるのかな。

面白くて続きが気になって、あっという間に読み終わった!っていうよりは、
のんびり読んでたら、いつの間にか読み終わってた…て感じの小説です。

この本は是非、コーヒーか紅茶か飲みながら読みたいですね。
私はミロを飲みました。

 

気力がない主人公

最初に言った最初の三行の話です。(ややこしい)

毎日が気怠い。疲れが溜まっているのだ。半年ほどまえに就職したが、それ以来、定休日を除いて、毎日出勤しなければならなくなった。世間では、ごく当たり前のことかもしれないけど、私にはこれが辛い。

(本文より引用)

 定休日を除いて、毎日出社するのが辛い。
人によっては、何甘えたこと言ってんだ!って言われそうだけど、辛いんですね。

当たり前がしんどいというか、周りの人より気力がないというか…。
でもこういう人結構いるんじゃないかと思うんです。私含め。
うん、絶対たくさんいる。私だけじゃないはず。

 

ほかにも、主人公高橋君に共感してしまう場面がいくつもあります。

例えば、遅刻する場面。
朝から仕事があるのに寝坊して、必死に仕事場へ向かったのに、約束の時間より早い。
そこで前日に時計を進めていたのを思い出す。そして大事な鞄を忘れる。

…別に自分が、こういう場面に出くわしたことがあるわけじゃないけど、
似たようなことは身に覚えがあるし、これからやらかしそうな気がする。

そして流されやすくて、省エネな高橋君の考え方に、つい自分を重ねてしまうのです。

 

この主人公の考え方に共感するところが多いのが、一番のお気に入りポイントです。
別に高橋君が成長して変わったり、問題を解決しなくても、
「あ~わかるな~」ってなるのが癒しというか…
同じ種類の人だって、安心するんですよね。たとえ現実にいない、物語の中の人でも。

是非最初の三行で共感した人は、読んでみてほしいです。

 

ストーリー

なんか感想終わった気になってたけど、ストーリーまだでした。
ですが正直に言っちゃうと、私は話自体はあまり好きになれなかったかな…。

 

前半は面白かったです。
銀河不動産に来る、主人公とは対照的な我が強い客たち。
でもまっったく嫌じゃないというか、憎めないというか。

みんなそれぞれ個性があって、まっすぐな人たちなんですね。
そして主人公の高橋君も、そんな人たちのために自分なりに頑張ります。

…というか高橋君、流されやすい通り越して、受け入れっぷりがえぐいです。
徹底して来るもの拒まずです。心配になるぐらい。
それでいいのか高橋君。まぁ結果なんだかんだで楽しそうなので良かったですが。

 

そして後半、ネタバレになるので書きませんが、ちょっとした事件?があります。
たぶんここから読む人によって、好き嫌い分かれそうです。

前半では高橋君、流されながらも納得して受け入れてるように見えますが、
後半では、それはハッキリさせなあかんで!?って状態で流されます。

来るもの拒まずというか、拒む隙がなかったというか。

で、どうしようと答えをはっきりさせないうちに、物語はどんどん進んでいきます。
まさかの良い方向へ。

 

普通物語が良い方向へ進んでいくと、嬉しいですよね。
ただ今回私は、得体のしれない恐怖を感じました。

高橋君がスパッと受け入れていたら、なんてことなかったと思いますが、
答えがなあなあになっている状態で、どんどん良い方向に進んでいくのが、
何故だかわからないけど、怖いのです。あれ、これ私だけかな?

 

ラストどうなるかは、もちろんネタバレなので書きませんが、
きっと人によって感じ方は違うんだろうなぁ…気になる。

 

まとめ

色々書いたけどまとめると、ほのぼの現代わらしべ長者的な小説でした。

後半からは個人的にはモヤモヤしましたが、全体的には、
さらっとしてるけどほんわかした空気感で、とても読みやすかったです。

この話はファンタジーで、実際にはこんな上手い話はないけど、
流された先で頑張ることができるなら、流される性格も悪くないんじゃないかと、
ちょっとだけ明るくなれました。

 

安部公房『箱男』感想

初めて「壁」を読んでから安部公房にハマり、ほかの作品も読んでましたが、
箱男」は 今まで避けてきました。特に難解と聞いていたので…
でもとうとう読んだので、忘れないように感想書きます。
(私の脳みそじゃ、理解はもちろん出来なかったけど)

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Juan FranciaによるPixabayからの画像

 ダンボール箱を頭からすっぽりとかぶり、都市を彷徨する箱男は、覗き窓から何を見つめるのだろう。一切の帰属を捨て去り、存在証明を放棄することで彼が求め、そして得たものは? 贋箱男との錯綜した関係、看護婦との絶望的な愛。輝かしいイメージの連鎖と目まぐるしく転換する場面(シーン)。読者を幻惑する幾つものトリックを仕掛けながら記述されてゆく、実験的精神溢れる書下ろし長編。

Amazon内容紹介より引用)

 

内容

本の内容?構成?は、箱男本人が箱男についての記録をつけているというもの。
そのせいか、記録風なところもあれば、突然物語が始まったり、
途中で新聞記事や、はたまた写真まで挟まってます。

あらすじに書いてある通り、実験的精神溢れてますね。
とても斬新。小説ってなんだっけ。

 

箱男とは(の前に)

まずここが、わからないなりにも私のお気に入りポイントなんですけど、
箱男とは何かの前に、箱の製法から説明されます。

それはもう材料から作り方まで、詳しく説明してくれます。
これで明日から君も箱男だ!とか言われるんちゃうかなと思いました。(言われない)
まだ箱男が何者かもわからないのに。

特に面白かったのがここ。

雑踏に出向く機会が多い場合は、ついでに左右の壁に穴を開けておくのもいいだろう。(省略)
補助の覗き穴にもなってくれるし、音の方角を聞き分けるのにも好都合だ。穴は内側から開けて、ささくれを外に向けたほうが―見てくれは悪いが―雨じまいには有利なようである。

(本文より引用)

 そっか、穴を外から開けると雨が入ってくるんですね、なるほど~……
いや、なるほど~ちゃうわ。何がなるほどや。

…というセルフつっこみをいれました。

でも不思議なことに、何の役にも立たないはずなのに、
ライフハックの記事を読んでる気分になるんですよね。

まだ箱男が何者かもわからないのに。

 

箱男とは

箱男とは、箱をかぶって街中を徘徊する路上生活者。
全国各地にいる痕跡があるが、世間から無視されるため、話題にならない。

…街中で見つけちゃったら、めちゃめちゃ不気味ですね。

そんな箱男、石を投げられたり空気銃で撃たれたりする嫌われ者で、
誰が好き好んでやるんだって話になるんですが、動機はとても些細なものなのです。

その動機は読んでもらうとして、誰でも箱男になる可能性があるのですね。
怖い。

 

ストーリー

一応元カメラマンの箱男がひょんなことから看護婦と出会って~という話が軸ですが、
とにかくストーリーがわからない!難解!

というのもまず主人公がわからない、今誰が話しているのか(書いているのか)
そもそもどの場面が現実か空想かも、後半になるにつれわからなくなっていきます。
(途中で謎の寓話?や、謎の詩や写真も入ってくるし)

ここが箱男一番の難関だと思います…
逆にこの夢のようなあやふやな世界に入り込めたら、楽しめると思います。

 

テーマ

物語の構成なんかは難解で、なかなか掴みどころがありませんが、テーマは単純に
「見る側、見られる側」、または「匿名性」というキーワードが、
あちらこちらに散りばめられているように思いました。

文中でも、箱男の覗き窓からの眼差しが、

無防備な箱男にとっての、数少ない護身術の一つだといっても言い過ぎではないはずだ。

(本文より引用)

 というのがあり、ほかにも写真に添えられた言葉で、

見ることには愛はあるが、見られることには憎悪がある。

(本文より引用)

というものがあります。

見ること(覗くこと)は暴力的なもの、見られることは不快で耐え難いものということが、
読んでいて印象に残りました。

 

ということは、箱をかぶって匿名性を保ち(他人に見られることなく)
そのくせ他人や世界を自由に覗き見ることができる箱男は、
特に悪いことをしてなくても、さぞかし疎まれる存在なんでしょうね…。

 

まとめ

正直な感想は、結局何だったんだろう……です。
色々思うところはあったはずなのに、読み終えると掴めない何かが残ってる…
そんな不思議な小説でした。

きっと読む人によって、解釈も楽しみ方も違うんでしょうね。箱男の印象も…

ちなみに個人的には、箱男ちょっといいなと思ってしまいました。
他人から見られず、自分の周りをすっぽり囲ったら安心するだろうなぁ……

はっ、危ない危ない。

 

最後に写真に添えられた言葉で、好きなものを紹介します。

小さなものを見つめていると、生きていてもいいと思う。
雨のしずく……濡れてちぢんだ革の手袋……
大きすぎるものを眺めていると、死んでしまいたくなる。
国会議事堂だとか、世界地図だとか……

本文より引用